バリ島の暦について
先日のブログでもお知らせしましたように、今週末、3月21日は、「静寂の日・ニュピ」です。この日一日は、観光客であっても、外出や灯火の使用は禁止となっております。
このニュピは一年に一度なんですが、同じバリ島の宗教行事ガルンガンは一年に2回行うことがあります。
どうしてでしょう?
この理由は、ニュピはサカ暦という暦、ガルンガンはウク暦という暦に沿って行われているからです。
バリ島には普段の生活で使う暦と宗教行事で使う暦があります。
普段の生活で使う暦は世界共通の西暦ですが、宗教行事ではサカ暦という暦とウク暦という暦を使っています。
では、サカ暦とウク暦、いったいどう違うのでしょうか?今回は、こんな疑問にお琴えしたいと思います。
◆太陽暦と太陰暦
サカ暦、ウク暦の話をする前に、太陽暦と太陰暦についてお話しましょう。
太陽暦とは、太陽の周りを回る地球の動きを基にして作られた暦です。一年が12の月に分けられ、365日(あるいは366日)で一年になります。と、難しく書いてしまいましたが、ふだん私たちが使っているカレンダー・西暦がこの太陽暦です。
一方太陰暦とは月の満ち欠けを基にして作られた暦です。
新月の日を1日目とし、月が満ちて、また暗月(真っ暗な状態)になるまでの期間(朔望月・さくぼうげつ)を1月とし、12か月で1年となります。この朔望月の周期はおよそ29.5日、つまり代替30日で1月となっています。
月の満ち欠けは観測しやすく、暦としては扱いやすいので、世界中ほとんどの国で昔はこの太陰暦が使われていました。日本でも旧暦と言われる昔の暦はこの太陰暦です。
ただし、月の周期は平均で29.5日、つまり12か月で354日なので太陽暦の一年365日と11日間のずれが起こります。
1年だけでしたら11日なのでそれほど問題ありませんが、3年で1か月、33年で1年のずれとなります。つまり、太陰暦だけだと、季節とのずれが生じてしまうのです。
この季節とのずれは農耕をする人たちには大変な問題となります。いったい、いつ種をまけばいいのか?畑を耕せばいいのか?といった問題が生じるのです。そこで、多くの太陰暦を使っている地域では、数年に一度閏月を入れて、太陽暦とのズレを修正していました。つまり数年に一度1年が13カ月あったんですね。
このように、太陽暦とのずれを修正して使う太陰暦を太陽・太陰暦と言います。
多くの地区では太陽・太陰暦を使い、季節と暦を連動させていましたが、イスラムの人々が使うヒジュラ暦は純粋な太陰暦です。そのため、イスラム教の行事は毎年11日づつ太陽暦とずれて行っています。
と、言うことで、太陽暦と太陰暦の違い分かっていただけましたか?
◆サカ暦とウク暦
では、本題のバリ島のサカ暦とウク暦の違いについてです。
まず、サカ暦というのは、太陽・太陰暦です。つまり、月の満ち欠けを基にした暦で、月齢1日目をその月の1日めとして、満月(プルナマ)の穂が15日目、そして暗月(ティルム)の日が30日目としています。
この30日間が1月となり12か月で1年となります。もちろん、先ほど説明した太陽・太陰暦ですので数年に一度閏月が入って季節とのずれを調整しています。
このサカ暦はインドのサカ暦を基にしていると言われており、バリ島にヒンドゥー教が伝わってきたとき(多分4〜5世紀ごろ)から使われていたようです。
次にウク暦ですが、このウク暦ってとても複雑な暦です。どうも、ウク暦というのは生活のための暦というより、占いや宗教のための暦といったようです。
ウク暦には1日暦から10日暦という10種類のカレンダーがあります。(この時点で複雑ということが分かっていただけると思います)その10種類の暦の組み合わせで、吉兆を占ったり、お祭りの日を決めたりしているのです。
10種類の暦と言いましたが、よくつかわれるのは3日暦、5日暦、7日暦の3種類で、この組み合わせでほとんどの宗教行事が決まります。
たとえば、三日暦の一つの日であるカジャンと五日暦の一つの日であるクリオンが重なる「カジャン・クリオン」のひは、悪鬼プトカロの活動が活発になるので注意をしなくてはいけない、とか、五日暦のKliwonと七日暦のSaniscaraが重なった日をTumpek(トゥンプッ)といい、大変良い日とされお祭りがおこなわれます。
バリ島の重要なお祭り、たとえば「鉄の感謝をする日」や「果物に感謝をする日」などは、すべてこのトゥンプッの日です。
特に重要なクニンガンもこのトゥンプッの日で、ガルンガンはクニンガンの10日前となっています。
このウク暦には、月とか年という概念はないようです。ただし、重要な3,5,7日暦の組み合わせ、たとえば5×7=35日をひと月、3×5×7=105日の倍、210日を一年ととらえているようです。
このウク暦、いつ頃からバリ島で使われるようになったのかははっきりとしていませんが、どうもウク暦はバリ島独自というより、ジャワ・ヒンドゥーの考えのようです。ということは、ジャワ・ヒンドゥーが確立してきた10世紀ごろから使われていたのかもしれません。
◆サカ暦とウク暦の使い分け
さて、バリ島では、サカ暦とウク暦、どう使い分けているのでしょうか?
同じ、宗教行事にスケジュールを決める暦なら、どちらかに統一したほうがやり易いのにともいますが・・・
私の推察なんですが、サカ暦とウク暦の使い分けは歴史に深く関係があると思います。
先ほどの説明で、サカ歴がバリ島に入ってきたのは4〜5世紀ごろ、ウク暦は10世紀頃と書きました。ただし、ウク暦が本格的に使われ出したのは、ジャワのマジャパヒト王朝が滅亡して、僧侶や貴族たちがバリ島に逃げてきた16世紀のことだと思います。
つまり、16世紀より前から行われている行事や、寺院などは、サカ暦に沿ってお祭りや祭礼を執り行い、16世紀より後になって行うようになった行事等はウク暦に沿って行われていると考えられます。ニュピやパガルゥエシといった行事は16世紀以前から行われていた、あるいは16世紀以前から信仰されていたヒンドゥー教に基づいたものなのでサカ暦で行っているのではないでしょうか?
さらに、ゴアガジャやプナタランサシなどペジェン付近のお寺のお祭りはサカ暦によって行われます。バリヒンドゥーの総本山と言われるプサキ寺院もサカ暦でお祭りを行います。
町中にあるお寺(プラダラムやプラデサなど)、そして家寺などはウク暦に沿ってお祭りがおこなわれます。これは、村内のお寺(カヤンガン・ティガ)や家寺はジャワ・ヒンドゥーの影響によってはじめられた制度だからだと思います。
このような理由から、バリ島にはサカ暦とウク暦という二つの暦があり、それによって宗教行事が行われています。そのため、1年に1回しかない行事もあれば、210日周期で行われる行事もあるのです。
このバリ島の暦についてはこちらのページ(バリ島の暦について知ろう)でも詳しく説明していますので、一度ご覧くださいませ。